マイケル・ハドソン「文明の命運」pp.243-244

資産価格インフレがデットデフレを引き起こす仕組み

財政赤字を出すと、経済に直接お金が使われる。そのため、生産能力や雇用の制約によっては、財やサービスの価格が上昇する可能性がある。しかし、前述のように、銀行は借り手がすでにある資産(主に不動産、株式、債券)を購入するための信用を作り出す。負債レバレッジの上昇は、これらの資産の価格上昇を加速させる。実際、土地の価格上昇は、GDPや消費者物価の上昇をはるかに上回っている。富は、主に土地や不動産、株式、債券、債権者のローン(「仮想富」)の評価における資産価格(「資本」)の利益によって得られるものであり、所得(賃金、利益、賃料)の節約によって得られるものではあまりない。この資産価格差益の大きさは、利益や家賃収入のそれを凌駕している。

この事実とキャピタルゲインへの課税が緩いことが、不動産投資家が家賃収入のほとんどを銀行部門に利子として支払うことを厭わない理由を説明している。彼らは、いずれ不動産を売却してキャピタル・プライス・ゲインを得たいと考えているのである。現代の金融資本主義は、現在の収入に資産価格の上昇を加えた「トータル・リターン」を重視している。

住宅やその他の財産は、銀行がいくら融資してもその価値は変わらないので、富は主に金融レバレッジによって生み出される。つまり、銀行は担保となる資産の評価額の比率を高めて融資するのである。これが、負債レバレッジのかかった経済を生み出す。資産価格の上昇の大部分が負債で賄われているという事実は、株式市場や不動産価格が信用で膨らんでいるにもかかわらず、米国やヨーロッパで成長が鈍化している理由を説明している。