「TSMCの出国」日本では好調も米国では失速

台湾の半導体メーカー、熊本での事業拡大が順調に進む一方、アリゾナでの工場建設計画は労働問題で暗礁に乗り上げる

Scott Foster
Asia Times
October 6, 2023

日本メディアの報道によると、台湾の半導体メーカーTSMCの九州・熊本での半導体新工場建設は急ピッチで進んでおり、予定より前倒しされる可能性があるという。この進捗状況は、TSMCが米国アリゾナ州で進めている工場プロジェクトが予定より約1年遅れているのとは対照的だ。

この違いは、投資の構造、企業文化、社会的期待に起因しており、米国の政策と東アジアの優先事項の断絶について疑問を投げかけている。

日米両政府の指導者は、世界有数の半導体メーカーであるTSMCへの強い支持を表明している。2022年12月、ジョー・バイデン大統領はアリゾナ州フェニックスで、アメリカ国旗と「アメリカ製の未来」と書かれた横断幕の前に立ち、「アメリカの製造業が戻ってきた、みなさん」と述べた。彼は正式な挨拶の中で、TSMCと、アメリカの半導体産業の活性化においてTSMCが果たしている役割を賞賛した。

2023年10月初め、日本の西村康稔経済産業大臣はX(ツイッター)に日本語でこんなメッセージを投稿した:

「台湾TSMCのマーク・リウ会長と会談した。TSMC、ソニー、デンソーの合弁会社であるJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)が熊本に工場を建設することは、日本の半導体産業を活性化するための重要な国家プロジェクトである。熊本では、日本の材料・装置メーカーや関連企業が相次いで新規投資を発表するなど、連携が進んでいます。今後のイノベーションも含め、協力・連携を継続していく。」

TSMCの熊本第一工場は2022年4月に着工され、現在も順調に工事が進んでいる。日本のメディアによると、台湾から数百人のTSMC技術者がプロジェクト管理のために派遣され、TSMCのサプライヤーからもさらに数百人が派遣される予定だという。さらに、TSMCはこれまでに台湾で300人以上の日本人労働者を訓練した。

熊本での設備設置は今月中に開始され、来春までには完了する予定である。2024年末の期限までに生産が開始される可能性が高い。

日本の熊本県に建設中のTSMCの新ウェーハ工場

一方、米国では、TSMCの言うところの熟練労働者不足によって進捗が遅れている。この不足は、官僚的なお役所仕事と、輸入労働者の使用に反対する地元の労働組合によって悪化している。

労働組合はまた、劣悪な組織、緩い安全基準、不合理な労働時間にも不満を抱いている。アメリカのメディアは、非組合員の移民労働者や州外労働者の大規模な利用を報じている。

バイデン政権が声高に労働組合を支持していることも、問題の一因かもしれない。昨年12月、バイデンは「ビジネスが組合の人々を雇うべき理由は簡単だ: 彼らは世界最高だからだ。彼らは世界最高の技術者なのだ。」

ヨーロッパ人、日本人、韓国人、中国人は異なるかもしれない。理由はどうあれ、TSMCはアリゾナでの商業生産の開始を2024年から2025年に延期した。

その一方で、日本や海外の装置メーカーは、TSMCの合弁事業によって生まれる新たな需要に備え、熊本への進出を拡大している。TSMCは、すでに半導体生産の重要な拠点となっている日本の「シリコンアイランド」九州に、新たな成長の波を起こそうとしている。

日本最大の半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンは、フォトレジスト塗布現像装置の開発・製造のための新施設を熊本に建設中である。2024年末の完成予定で、九州での事業規模は倍増する。塗布現像装置の世界市場は東京エレクトロンが独占している。

米国アプライドマテリアルズ社に次ぐCMP(化学的機械的平坦化)装置メーカーである荏原製作所は、CMP生産能力を約50%増強する新工場の建設に着手した。東京近郊の藤沢にある新しい研究開発施設と合わせて、2024年末までに稼働する予定だ。

半導体ウエハーのダイシング、グラインディング、ポリッシング装置および関連消耗品で世界をリードするディスコは、熊本にミッドプロセス研究所を正式に開設した。同センターは、2021年12月からコビッド関連の健康上の制約のもとで稼働していたが、7月に顧客やその他の訪問者が利用できるようになった。

この施設の目的は、ディスコが得意とする、シリコンやその他の種類のウェハー上に多数の半導体デバイスを製造する「前工程」と、ダイシング(ウェハーを切断によって単一化し、半導体にパッケージするために個々のダイを分離すること)の「後工程」の移行を改善することである。その目的は、ウェハーの劣化を防ぐことで高い歩留まりを維持することである。

また、ミッドプロセスR&Dセンターでは、一連の工程を搬送ロボットでつなぐことで、無人化の検証も可能にしている。グラインダーによるウェーハの薄化、ブレードダイシングやレーザーソーによるシンギュレーション、ダイのピックアップ・検査・測定などである。

世界有数の半導体洗浄装置メーカー、スクリーンホールディングスは6月、熊本工場に新しいトレーニングセンターを開設した。

ASMLは熊本でのサポートとサービス能力の拡大を計画している

半導体露光装置のトップメーカーであるオランダのASMLと、エッチング装置の米国トップメーカーであるラムリサーチが、熊本でのサポート・サービス能力の拡大を計画している。世界最大の半導体製造装置メーカーであるアプライド・マテリアルズと半導体検査装置のトップメーカーであるKLAも熊本にオフィスを構えている。

TSMCは熊本で、ソニーとデンソー(トヨタ自動車傘下)と協力している。ソニーとデンソーは、TSMCの株主であり、最大の顧客候補でもある日本の大手企業だ。TSMCは、台湾から少し離れた、経営陣と労働組合の対立関係のない同様の企業・社会環境の中で、両社向けのICファウンドリーサービスを拡大する予定である。アリゾナでは、TSMCは新事業の100%を所有している。

TSMCがボッシュ、インフィニオン、NXPとの合弁会社「欧州半導体製造会社」の設立を計画しているドイツのドレスデンでも、TSMCは投資家であり顧客でもある地元の強力なパートナーと協力することになる。ドイツを拠点とするプロジェクトも、日本でのプロジェクトと同様、アリゾナで停滞しているプロジェクトよりもスムーズに進みそうだ。

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