プーチンの元ボディーガード、アレクセイ・デューミンがウクライナ侵攻への対応責任者に。

2019年6月5日、ロシア・モスクワの大クレムリン宮殿で行われたロシア・中国会談で、プーチン大統領(右)を見つめるアレクセイ・デューミン(左)。プーチン大統領はこの元クレムリン諜報員をクルスク地方の防衛責任者に任命したと当局者が発表した。画像 X スクリーンショット
Stefan Wolff
Asia Times
August 17, 2024
ロシアのクルスク地方におけるウクライナの作戦は、キエフの地上軍が2024年8月6日にロシア領土の奥深く数マイルまで急速に前進する前に、数日間の空爆で7月下旬に始まった。
それ以来、さまざまな報道によれば、彼らは1000平方キロメートルもの拡大した足場を築いた。彼らは多くのロシア軍設備を破壊し、ロシア軍に多くの死傷者を出している。
クレムリンはこの地域に軍を急派したが、今のところウクライナ軍の進撃を食い止めることはおろか、ウクライナ軍をロシア国内から追い出すこともできていない。さて、まだ未確認だが信憑性の高い報道によれば、プーチンはウクライナ軍の侵攻に対する「対テロ」対応の責任者としてアレクセイ・デューミンを任命した。これはいくつかの点で重要だ。
まず、人事面である。デューミンはプーチンの元ボディーガードだが、軍事情報機関GRUの副長官、国防副大臣、そして2024年5月末まではモスクワ南部のトゥーラ州知事も務めた。
その後、国務院長官に任命された。これはロシアの全州知事を集めた組織で、ロシア大統領が議長を務める。明らかに伝統的な軍のヒエラルキーから外れた人物であるデューミンを選んだことは、プーチンが軍のリーダーたちを信頼していないことを示している。
従って、この危機に対するデューミンの対応は、ロシアの政治エリートたちの間で彼の出世を加速させるか、あるいは終わらせるかのどちらかになりかねない。もし成功すれば、プーチンの後継者の有力候補としての地位を確固たるものにする可能性がある。
ウクライナの作戦を「対テロ」対応を必要とする挑発行為とするプーチンの言い回しも重要だ。これは、プーチンがロシアを隣国との実際の戦争に巻き込んだことをまだ認めたくないことを暗示している。
むしろ、ロシア国内で現在進行中の対テロ作戦は、プーチンがウクライナで行っている「特別軍事作戦」と呼ばれるものと隣り合わせである。
どちらも、プーチンが今直面している問題の本質を覆い隠している。一方では、ロシア大統領はウクライナでの非常にコストのかかる戦争に対処しなければならない。この紛争は世界の地政学的状況を根本的に変え、モスクワには、中国、イラン、北朝鮮との見苦しく扱いにくい同盟に代わる選択肢がほとんどなくなってしまった。
その一方で、ロシアの国家安全保障を守る能力において、プーチン自身と主要な軍事指導者たちの能力に対する認識はさらに損なわれている。たとえ最終的に、今のところロシア国内の驚くほど奥深くに固まっているウクライナ軍を封じ込め、押し返すことができたとしても、彼らがこれほどの距離をこれほど長い間取り続けることができたという事実そのものが、紛れもない失敗なのだ。
西側への非難
プーチンが、ウクライナに対する侵略戦争を正当化するための重要な理由のひとつである、「すべては西側のせいだ」という言葉を二転三転させていることも注目に値する。
「西側諸国はウクライナ人の手でわれわれと戦っている」と主張しているとの報道も、プーチンにとってこの戦争が、ウクライナがNATOやEUに加盟する可能性よりもはるかに大きな問題であることを示している。それはまた、戦争終結をめぐるキエフとの交渉の可能性に関して、モスクワが長期的に何を期待できるかを示す重要な指針でもある。

クルスク地方の状況を話し合う国家安全保障会議の議長を務めるロシアのプーチン大統領。写真 EPA-EFE / ガブリル・グリゴロフ / スプートニク / クレムリンプール
モスクワがこのような事態から得たいものは、ウクライナと西側の弱体化であり、特に将来NATOと対立する可能性がある場合には、自国の立場を相対的に強化することである。
これはまた、プーチンにとって非常に重要であることがわかっている彼の遺産という意味も含め、国内的にも重要である。このような優遇的な結果は、米国とその同盟国に対抗するものとして台頭してくる中国主導の同盟において、ロシアの影響力を高める可能性もある。
ロシアと西側の対立という枠組みを作り続けることは、ウクライナの西側の同盟国にとっても、利害関係を高めることになる。ロシアは、NATO全体、あるいは個々のNATO加盟国が共同交戦国となっており、したがってロシアが紛争をエスカレートさせる正当な標的であると主張する機会を得る可能性がある。
英国がウクライナに提供した武器は、長距離ミサイル「ストームシャドウ」を除いて、キエフがクルスク地方での作戦で使用することができるという立場を改めて表明したことは、モスクワにとって、西側諸国が自国に対する交戦国として行動しているそのような例のひとつであることは間違いないだろう。
ロシアは過去2年半の間、この主張を繰り返してきた。しかし、ロシアがエスカレーションの脅しを実行に移したことは一度もない。一方では、プーチンがまずウクライナと、ひいては西側諸国との戦争状態を認めなければならなくなる。
他方では、NATOが第5条を発動し、加盟国に集団的自衛権を要求し、全面的な軍事衝突に発展する可能性が高い。
どちらもプーチンの利益にはならない。そして後者は、プーチンが交渉を通じて得たいと望むものを、ロシアにとって達成することはできない。
ウクライナがクルスク地方で行った作戦は、ロシア大統領にこの機会を与えず、今後の交渉に先立ち、土俵をさらにキエフ有利に傾ける可能性が高い。それだけに、今回のウクライナの攻勢は、西側諸国が引き続き支援し、プーチンのハッタリをかわせるだけの価値がある。
ステファン・ウルフ:バーミンガム大学 国際安全保障学部教授