EU単一市場をひずませる「独仏のエネルギー資金投入」-ポリティコ

EU諸国は、産業用の安価なエネルギーを確保しようとするパリとベルリンの動きが、EU圏の競争力を損なうのではないかと懸念している。

Victor Jack, Varg Folkman and Giovanna Coi
Politico
January 4, 2024

ドイツとフランスが自国産業のためにエネルギーコストを削減しようとする動きは、欧州連合(EU)の小国が追いつけないという懸念を呼び起こし、EU単一市場に亀裂を生じさせた。

約2年前、モスクワのウクライナ侵攻をめぐって関係が悪化し、ロシアからのガス供給が突然途絶えたとき、自国産業の競争力を維持するために低価格供給に慣れていたEU圏の多くの国々は、この途絶を契機に自国を見つめ直した。そして今、EUの2大メンバー国は自らの手で、自国の電力価格を人為的に引き下げようとしている。

エネルギー価格の高騰、グリーンテクノロジーをめぐる熾烈な国際競争、北京との貿易摩擦の高まり、ワシントンとの関係を揺るがしかねないアメリカの選挙などを背景に、6月のEU選挙を前にEU圏の競争力がますます注目されるなかでの発表である。また、EU圏が国家補助金規制の撤廃を含む単一市場の見直しを検討している最中でもある。

自国の産業に公的資金を投入する資源を持たない他のEU諸国は、フランスとドイツの措置が単一市場を弱体化させ、国際的なライバルに対する大陸の競争力を損なう危険性があると警告している。

エストニア気候省のエネルギー担当次官であるティモ・タタール氏は、「公平な競争条件を歪める大規模な補助金の増加は、明らかに憂慮すべき事態です。一方、我々の共同努力は、他の世界経済と比較してEU全体の競争力を高めることであるべきです」と彼はポリティコに語った。

この問題は、EU全域で有権者が投票に向かうにつれて、さらに重要性を増すだろう。

シンクタンク、ヨーロッパ・ポリシー・センターの経済アナリスト、フィリップ・ラウスベルグ氏は、「エネルギー価格は、どの経済にとっても非常に重要なものだ」と語る。「企業はエネルギー価格の高騰に不満を抱いている......ヨーロッパは競争力を失いつつあるため、競争力が最重要テーマのひとつになるだろう」とラウズベルグ氏は付け加えた。

電力の不均衡

ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した直後、ヨーロッパの電力価格は記録的な水準まで高騰した。昨年末のEUの最大月間電力価格は2022年の同時期と比べて約半分に下がったものの、依然として過去の2倍以上の水準にある。

国内からの強い圧力の中、ドイツは連立与党3党による数ヶ月に及ぶ協議の末、11月に産業界に対する補助金と減税措置を発表した。

政府は、製造業に対する電力税を1メガワット時あたり0.50ユーロ(EUが認める最低水準)まで引き下げ、エネルギー集約型企業350社に対する補助金を増額し、2028年までに280億ユーロを放出すると発表した。

数日のうちに、フランスは独自のプログラムを発表した。

国営電力会社EDFとの困難な交渉の末、パリは、2026年から原子力エネルギーで生産された電力の平均価格を競争力のある1MWhあたり70ユーロにする新メカニズムを発表した。

シンクタンク、ジャック・ドロール研究所の研究員であるフック・ビン・グエン氏は、フランスの電力消費の70%を占める原子力発電を産業界の消費者が利用しているかどうかにかかわらず、この動きは将来の電力契約に暗黙の上限価格を設定するものだと述べた。

厳密には補助金ではないが、この措置によってパリは、電力価格が高騰した際に膨大な原子力発電所から得られる収入を取り戻し、その現金を自国の産業に再分配することも可能になる、と同氏は言う。

ドイツのスキームと同様、「フランスが電力価格に関して競争力を持てるようにするためのものです」とグエン氏は言う。

今のところ、この2つの措置はまだ議会で最終承認を得ていない。しかし、パリやベルリンほど予算力のないEU諸国にとっては、すでに悪夢と化している。

他の外交官同様、自由に発言するために匿名を許可されたEUのある外交官は、「これは、私たちがまったく賛成できないことだ」と語った。

「極端なシナリオ」とは、エネルギー価格の引き下げで利益を得ているフランスやドイツの企業が、ヨーロッパの競争相手よりも大きな資源を蓄え、近隣諸国のライバルを買収し始めることだという。「どう考えても、それはヨーロッパの集団の精神に反する」とその外交官は苦言を呈した。

他の国にとっては、勝ち目のないエネルギー補助金競争を引き起こすことが問題なのだ。

EUのある2に目の外交官は、「わが省ではすでに、『補助金はどこにあるんだ』と企業がドアをノックしている。最終的には、いくつかの加盟国から企業を追い出すことになるかもしれない」と述べた。

企業もまた、自分たちが取り残されることを心配している。

スウェーデン企業連盟(Confederation of Swedish Enterprise)の競争部長であるステファン・サゲブロ氏は、「一部の企業は、スウェーデンの現政権があまり産業界に前向きな改革を打ち出していないことに失望している」と付け加えた。

エネルギー計画によって、パリやベルリンは外国からの投資にとって「一夜にして」隣国よりも魅力的になるだろう、とアナリストのラウスベルグは言う。長い目で見れば、EU域内のサプライヤーを使っているフランスやドイツの企業が、国内、あるいはエネルギー価格の安い海外に代替先を探すようになる可能性もある。

特に中欧や東欧の国々、例えばチェコ共和国やハンガリーなど、ドイツの自動車産業向けの部品を生産している国々は、「結果として魅力的でなくなることは想像に難くない」とラウスベルグ氏は言う。

優先順位の変化

パリもベルリンも、自分たちはルールに従って行動していると主張している。

フランスのアニエス・パニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣はポリティコの取材に対し、「もしフランスが電力に巨額の補助金を出すという隠れた計画を持っていたら、フランスは批判されたかもしれない」と語った。

「EDFとの合意は、主に市場ベースのメカニズムに依存することを目的としており、国家補助には当たらない」と彼女は言い、パリの安価で豊富な電力は「フランス人にとっての利益であり、ヨーロッパにとっても利益である」と付け加えた。

ドイツ経済省のスヴェン・ギーゴールド副大臣は、「他国が懸念していることは承知している」としながらも、「われわれが行っていることはすべて、EU委員会による国家補助規制のもとで行われており、それは非常に合法的なものだ」と述べた。

今回の措置は、すでに多額の補助金が投入されている上でのものだ。ブリューゲル・シンクタンクによれば、2021年後半以降、エネルギー価格の緩和に充てられたEU諸国の総支出のうち、フランスとドイツが46%を占めている。

しかし、パリとベルリンにとっては、2022年に3690億ドルもの巨額の気候変動対策補助金「インフレ削減法」を発表した中国やアメリカとの熾烈な競争の中で、自国の産業を存続させ、新たなクリーンテック投資を誘致するために、エネルギー対策を展開することの重要性が増している。

「中国とアメリカは......将来の投資に補助金を出している。中国が新たな技術革新のサイクルを持つなら、我々はまだEU委員会の承認を待っている」とギーゴールドは語った。

問題は、この措置が単一市場に打撃を与えかねないことだ。

欧州委員会のある高官は、昨年末の欧州連合(EU)の電力市場改革について、「この種の支援は、EUの法律によって水平的に規制されることが望ましい」と述べた。

EU執行部は、すべてのEU加盟国が等しく恩恵を受けられるような形で、公的資金を新たなグリーンエネルギー投資に充てる方法について、統一的なアプローチを定めたがっていた。しかし、フランスとドイツの数ヶ月にわたる確執は、場合によっては個別的なアプローチと新たな国家補助の規制を認めるという、より曖昧な妥協案に終わった。

EU圏の小国にとっては、「単一市場が唯一の手段だ」と、この高官は付け加えた。

最終的には、EUの域内市場こそがEUの競争力を維持するものである、とラウズベルグ氏は言う。

独仏の措置は「中長期的には間違いなく単一市場を弱体化させる。もしそれを危うくするなら、本当に問題がある」とラウズベルグ氏は述べた。

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