「生成AIの先陣を切る」日本のNEC

欧米がAIによるディストピアを懸念する一方で、日本のNECは生成AIの実用化を静かかつ迅速に進めている。

Scott Foster
Asia Times
March 18, 2024

数多くの実用的なアプリケーションのために、安全で信頼性の高いシステムを構築するという大変な作業こそが、生成人工知能(AI)の将来性と有望性がある場所なのだ。日本はそれを理解しているが、欧米の多くは理解していない。

日本のNECは3年近くかけて独自のAIスーパーコンピューターを構築し、最高の性能を誇る日本語大規模言語モデル(LLM)を構築する一方、オフィスや工場で他のAI製品をテストしている。それらが適切に機能すれば、有料顧客に販売されることになる。

NECは、日本を代表するコンピュータおよび通信機器のサプライヤーであり、ビジネス、産業、社会インフラ向けにソフトウェアベースのサービスを提供する大手プロバイダーでもある。

LLMは、ディープラーニング(ニューラルネットワークをベースとした機械学習)と豊富なデータベースを使用して情報を収集し、人間の言語に基づいたテキストを高速に生成するAIアルゴリズムである。

NECの西原基夫副社長兼CTO(最高技術責任者)は最近、日本経済新聞の取材に対し、2023年5月に試験運用を開始して以来、文書作成にかかる時間を半分に短縮し、会議メモの書き起こしを30分から5分に短縮するAI能力を開発したと述べた。

NECはまた、社内システム開発のソースコード作成に必要な作業時間を最大80%削減できたと報告している。同社の生成AIシステムは、約2万人の社員によって1日約1万回利用されているという。

NECのAIスーパーコンピューターは2023年3月に稼働を開始した。エヌビディア製の928基のグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)とインテル製の中央演算処理装置(CPU)を搭載し、NEC独自のLLMをはじめとするAI演算をサポートする。

NECは2023年7月、LLMの使用ライセンス、ハードウェア、ソフトウェア、コンサルティングサービスを含む「生成AIサービス」を開始した。情報漏えいや不正確な情報への対応、企業内に蓄積された知識をモデル化し、有効活用するシステムの開発などを行う。

NECの日本語LLMは、技術の共同開発を推進するYuzuAI(東京)が実施したラクダベンチマーク調査によると、競合他社を59%対95%で上回っている。

また、NECのLLMはスケーラブルであり、数学、物理学、業界固有の機能などの特殊なAIアプリケーションと連携させることができる。消費電力が低いため、同社の小型LLMをエッジ展開し、クラウド・コンピューティング・サービスと組み合わせることができる。

これにより、業務プロセスを個別のタスクに分解し、AIモデルを自律的に展開・連携させ、セキュリティやネットワークを管理することで、さまざまな業務の自動化が可能になる。また、NECのLLMは、同社の画像技術や音声センシング技術と組み合わせることで、実世界の事象を処理することもできる。

米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した評価では、NECは顔認証、虹彩認証、指紋認証などのバイオメトリクス認証技術の開発で世界をリードしている。NECの東京本社で使用されている顔認証システムは、新型コロナの際にマスクした社員を識別することができた。

市場調査会社フロスト&サリバンによると、NECは空港の出入国手続きや搭乗手続き、国民ID、法執行機関などに適用される顔認証技術で市場をリードしている。海外市場には、ベトナム、インド、ヨーロッパ、アメリカが含まれる。

同社はまた、動画を一貫性のある文章で表現された情報に変換する広範な動画認識AIでも競争優位性を主張している。

NECは、保険、医療、製造、建設、航空など多様な分野でこの用途を見出している。NECは映像認識に関する米国特許および出願中の特許で第1位を獲得している。

別の例では、類似性評価と位置予測技術は、衛星画像や航空画像との相互参照を通じて、絶え間なく流れる画像から災害状況とその正確な位置を検出することができる。LLMと組み合わせることで、進行中の災害を素早く描写し、緊急対応のスピードを向上させることができる。

企業のセキュリティに関しても、NECのサイバー攻撃リスク評価技術を活用した専門的なLLMがあれば、専門家でなくてもわかる診断結果や報告書で、事象や問い合わせに迅速に対応できる。

東北大学病院とのプロジェクトでは、医療用語に精通したLLMが電子カルテや電子文書を作成することで、カルテや文書の作成時間を半減させ、医師の負担を軽減することができる。地方自治体もまた、LLMによって時間のかかる事務作業を大幅に削減できる分野である。

今後3年間で、NECの経営陣は生成AIの売上高500億円(3億3500万米ドル)を目標としている。これはNECの総売上高の2%にも満たないが、この数字はNECのビジネスに与えるであろう影響を控えめに示している。

生成AIとLLMをビジネスや業界に特化したソリューションに導入することは、NECの通信サービス、社会インフラ、国家安全保障関連事業の有意義なアップグレードにつながるはずだ。また、人々がAIをどのように受け止めるかにも、目に見える影響を与えるはずだ。

ワシントン州フライデー・ハーバーに本社を置くアメリカのAI・機械学習企業、パターン・コンピュータのマーク・アンダーソンCEOは、ChatGPTについてこう質問する:

"私たちの言葉を反映させるだけのソフトウェアに世界中が熱狂している今、その熱愛と一時的な反撃が終わった後、AIの次の10年がどのようなものになるかを考えることは価値がある"

国家情報長官室(Office of the Director of National Intelligence)と中央情報局(CIA)は、IC OSINT Strategy 2024-2026という文書の中でこう書いている:

「GAI(Generative Artificial Intelligence:生成的人工知能)は、基礎となるデータに共通するテーマやパターンの特定を支援したり、大量のテキストを迅速に要約したりするなど、タイムリーで洞察に満ちた OSINT(オープンソースインテリジェンス)の作成を可能にする強力なツールとなり得る。同時に、不正確さや幻覚を含むGAIの潜在的なリスクを軽減するために、OSINTの技術や訓練は更新され、洗練されなければならない。

生成AIのブローバック、不正確さ、幻覚は、慎重に管理されたソースインテリジェンスと徹底的にテストされたアプリケーションによって制限することができる。まさに今、NECが行っていることなのだ。

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