マイケル・ハドソン「文明の命運」p.245

中央銀行は、金利をゼロ近辺まで下げることで、裁定取引(低金利で借りて高いリターンをもたらす資産を買うこと)によって、金融上の利益を「自由に」得られるようにする。これは生産と消費のプロセスとは何の関係もない。その結果、債務レバレッジは、指数関数的に増大するレンティアの諸経費(債務返済とレント)を生み出すことによって、「仮想」富(金融証券と経済上の財産請求権の価格)を増大させる。その結果、富の所有権が債権者や賃貸不動産、株式、債券の所有者の手に集中することになる。彼らの富は、第2章で述べたように、債務サービスや関連する金融手数料、非レンティア経済に課される罰則や諸経費からの収入に基づいている。

このような条件下では、銀行の信用供与が増えると、実際には消費者物価が下がる傾向がある。負債レバレッジの効いた住宅価格の上昇により、新規住宅購入者や賃借人は、住宅購入のための住宅ローンの利子として、あるいは家賃として地主に、所得の一定割合を銀行に支払う必要がある。このような金融機関への支払いにより、商品やサービスに使える所得は少なくなる。資産価格のインフレは、経済のレバレッジが高くなるにつれて、負債デフレを引き起こす。

つまり、負債デフレは資産価格インフレの副産物である。住宅価格の上昇で消費支出が減り、消費者物価の下落圧力がかかるのに、生活コストは高止まりしている。だから、政府はFIREセクターの資産価格上昇に対抗して、住宅価格の抑制を図る必要がある。

資産価格のインフレがデフレをもたらすのは、銀行の信用が株式や債券に使われる場合にも同じことが言える。つまり、資産の利回り(収益率)が低下する。中央銀行が金利を下げて資産価格の上昇を維持すると(主に銀行の支払能力を維持するため)、資産の利回りが低下するため、年金基金が一定の経常利益を得るために積み立てる必要がある金額が増加する。そのため、公営企業や民間企業は、年金積立金の積み増しを余儀なくされ、新規設備投資への支出が減少するか、あるいはキャピタルゲインを求めて金融市場に投機する。

家賃が下がっても住宅バブルが続くのは、資産価格の上昇によって生まれた新たな「エクイティ」(信用で膨らんだキャピタルゲイン)を担保に、不動産所有者が借り入れをして金利を支払うことを望むからである。負債を抱えた地主や投機家の支払能力を維持するため、中央銀行は資産市場に新たな信用を流し続け、銀行の顧客が「負債から抜け出すために借りる」ことを可能にする。金融システムの崩壊を防ぐには、債務返済のための貸出金利を指数関数的に上昇させる必要がある。これが、「複利の魔法」に内在する数学的なダイナミズムである。金融化された経済が支払能力を維持する唯一の方法は、経済をネズミ講に変え、新たな信用の流入を呼び込むことである。そのためには、中央銀行が幇助する必要がある。